協会コラム ~だから、Medicell~
Vol.18 柔軟性の正体
嫌いな人が多い、立位体前屈。床に腰を下ろして行う、長座体前屈も。
私たちの年代では、小中学校時代に、スポーツテストでやりましたね。腿の裏側が痛い・痛いって言いながら。反動をつけたりしてね。違反だけど、ちょっとでも良い記録を出そうとして。それで、時には筋肉痛になったり。
腰痛のリスクを調べるテストとして、クラウス・ウェーバーテストというのがあったのをご存じの方は、今やどれくらいおられるでしょうか。
その内容はというと、前屈と、上体そらしと、腹筋運動。
当時は、腰痛は柔軟性と腹筋の筋力に関係すると言われていました。
今でも、そのことを堅持している専門家もおられますね。
もちろん、関係はありますが、鶏が先か、卵が先かで。柔軟性が低下したから腰痛になったのか、腰痛があるから、柔軟性が低下したのか。
それと、柔軟性は高いのに、腰痛になる人も多くいます。体操競技や新体操の選手にも、かなり腰痛を持っている人がいます。
今や、腰痛が起きる仕組みは、色々と明らかにされてきています。
それはそれとして、柔軟性とはいかなるものかということが、知られているようで知られていないなという気がします。
私が学生だったか、大学院生だったかのころ、旧ソ連のスポーツやトレーニングの学者で、当時斬新な研究や学説を世に出していたV.M.ザチオルスキーの「スポーツマンと体力(邦題)」に、柔軟性は筋肉自体の伸展性と、筋肉の伸展反射によって決定する。筋肉自体の伸展性は、十代半ばで決まり、それ以後は向上しない。という内容が書かれていました。なので、十代半ば以降、前屈や開脚など、いわゆる柔軟性が向上するのは、伸展反射の起き方が変化するからなのだと。
これを目にした時、経験的な話しや、なんとなく体が柔らかいとか硬いとかいうのとはちがって、スポーツ科学の理論とはこういうものなんだ、と感じたのを覚えています。
ここで書かれていた筋肉自体の伸展性というのは、筋繊維がどれくらい伸展するかということでしょう。伸展反射は、いうまでもなく、筋繊維が伸ばされた時、その筋繊維が脊髄反射で短縮することを指します。特に、筋肉の両端にある腱にある腱紡錘が伸展の情報をキャッチして、脊髄に送ることによって起きます。
ストレッチング等を行って、この伸展反射がどれくらい筋繊維が伸展されたときに起き始めるか。この仕組みが変化して、その筋肉が引き伸ばされることに対しての、短縮の仕方が変わります。
十代半ば以降は、筋繊維自体の伸展性は向上しないと書きましたが、もしその筋繊維を包んでいる筋膜をリリースしたらどうでしょうか。
筋膜が筋繊維に付着した状態だと、筋繊維の伸展は邪魔されるのは、想像に難くないと思います。その付着している筋膜をリリースすると、当然伸展しやすくなるでしょう。
しばしば行われている様に、筋膜のリリースを行うと、例えば前屈が楽になる、よく曲がるようになる、とかはこのことが起きた結果ですね。
それは伸展反射の起き方が変化したのではないですね。
そして、リリースによって筋膜による束縛が減るということの方が、様々なメリットを生み出すと言えますね。
筆者:竹内 研(一般社団法人日本メディセル療法協会理事・学術委員長)