協会コラム ~だから、Medicell~
Vol.45 バランス能力と老化について
バランス能力とは、身体の重心を保ち、姿勢を安定させるための身体的な機能です。この能力は、日常生活動作(ADL)や歩行・立ち座りといった基本的な動作の中で常に使われており、私たちが転倒せずに安全に移動したり作業を行ったりするために欠かせないものです。

しかし、加齢に伴いこのバランス能力は徐々に低下していきます。その背景には、複数の身体的・神経的な要因が関係しています。
まず、加齢によって視力が低下し、平衡感覚を担う内耳(前庭器官)の機能も衰えていきます。さらに、足裏の感覚や関節の位置を感じ取る「体性感覚」も鈍くなり、身体の状態を正確に把握する力が低下します。加えて、筋力の衰え、とくに下肢筋(大腿四頭筋や腓腹筋、ヒラメ筋など)の減少がバランス能力の低下を加速させます。これらの変化によって、転倒に対する反応が遅くなり、姿勢制御の機能が落ちていくのです。

また、関節の柔軟性が失われると、転倒時の立て直し動作や可動域が制限され、リスクがさらに高まります。こうした変化は、バランス機能の低下のみならず、サルコペニア(加齢性筋肉減少症)やフレイル(虚弱)、さらに転倒による骨折・寝たきりといった深刻な健康問題に直結します。
では、バランス能力を維持・改善するためにはどうすれば良いのでしょうか。
よく言われる有効な手段の一つは、下肢筋力を中心とした筋力トレーニングです。スクワットやカーフレイズなど、立位バランスに関わる筋群を鍛えることで、姿勢の安定性が高まります。また、片足立ちやバランスボール、バランスボードを使った訓練も効果的だとされています。特に、視覚に頼らずにバランスを取る練習(目を閉じた状態での片足立ちなど)は、体性感覚や前庭感覚のトレーニングにもなります。

さらに、ウォーキングや水中運動といった有酸素運動は、全身の動きの調整力を高めるとともに、持久力や心肺機能の維持にも貢献します。加えて、関節の柔軟性を高めるストレッチや、正しい姿勢を意識した体操もバランス保持の能力を底上げするために重要です。
このように、いくつかの方法がバランス能力の維持や改善に有効だとされていますが、その中心は、神経系の機能の維持・改善だと言えるでしょう。
重心の位置は常時感知されていて、その情報は常に中枢である脳や脊髄にインプットされています。その情報が処理されて、バランスを保つために重心位置を整えるように、様々な体の機能が働くのです。
だから、神経系が活性化していることが、なんといっても重要です。神経系は、多くの情報や刺激がインプットされることによって活性化します。

バランス能力は加齢によって確実に低下しますが、適切な施術による介入や、日常的な身体活動の工夫によって、その機能を維持・改善することは可能です。高齢期における健康寿命の延伸、転倒予防、QOLの維持のためにも、早い段階からバランス能力に目を向けた取り組みを行うことが望まれます。
筆者:竹内 研(一般社団法人日本メディセル療法協会理事・学術委員長)